Perfume

君の幸福を願う幸せ

不二姉弟の日常



暖かい陽射しと、さわさわと風にそよぐ木々の音。
柔らかな心地良い空気の中でうとうととまどろんでいた私は、カチャッというドアノブを回す些細な音を切っ掛けにふと目を覚ました。

(……あれ、寝てたんだっけ?)

眠りから覚めた直後のはっきりしない頭でぼんやりと考えながら、のそのそと緩慢な動作で起き上がる。すると背後で今度はパタン、とドアが閉まる音がした。パッと振り返っても誰もいない。誰かが入ってきたんじゃなくて、出ていったのか。
漸く普段通りに働くようになってきた頭をふるふると軽く振って、完全に意識を覚醒させる。それから改めて回りを見ると、横では裕太が丸くなって眠っていた。ごろりと転がった裕太の近くには絵本が開かれたままになっていて、ああそういえば、と意識が途切れる前のことを思い出す。そうだ私、周助と一緒になって裕太に絵本読んであげてたんだった。その途中で寝ちゃったのか。
それじゃあさっき出ていったのは周助かな、なんて考えつつ本が傷むといけないので開きっぱなしになっていたそれに手を伸ばしパタリと閉じる。それからむくりと起き上がるとパタパタと軽い足音がこっちに向かってくるのが聞こえてきて、その音に私が振り返るとほぼ同時にドアノブがカチャリと回された。

「あれ、おきちゃった?」

開かれたドアの隙間からするりと部屋に入ってきた周助は起き上がっていた私を見て、「ごめんね、ぼくがうごいたからかな」と申し訳なさそうにちょっとだけ眉を寄せる。その腕には大きめのブランケットが抱えられていて、眠ってしまった私と裕太のために態々持ってきてくれたのだということが窺えた。

「ううん、わたしこそごめんね。とちゅうでねちゃったみたいで……」
「だいじょうぶだよ。ちゃんよりさきにゆうたもねちゃったし。ゆうたにはそのほん、まだちょっとむずかしかったみたいだね」

こんどはもっともじがすくないのにしようか、と言いながらまだ眠り続けている裕太にそっとブランケットを掛ける周助の様子に、この歳でもやっぱりお兄ちゃんなんだなぁ、なんて微笑ましくなる。仲良し兄弟だね。良き哉良き哉。

ちゃん、どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ」

急ににこにこし始めた私に不思議そうな目を向ける周助の様子が可愛らしくて、ふふ、と益々目元を緩めた。

そういう私達の様子を、普段は由美子姉さんが「うちのチビ達は仲が良いわね」と微笑ましそうに見ているなんてことは、私が知る由もないことである。