「蓮二君と乾君って、時々『教授』とか『博士』って呼び合うよね」
休日、いつものように手頃な公園に集まってテニスをしていると、が不意にポツリとそう呟いた。少し何かを考えるような仕草で口元を押さえるに、俺と貞治は疑問符を浮かべながらお互いを見やった。
「まあ、確かにそうだが……」
「……どうしたんだ?急に」
確かにが言って通り、今もお互いのプレイを称え「やるじゃないか博士」「そう言う教授もな」と声を掛け合っていたところだ。
だが、それが一体どうしたというのか。そんな疑問を込めて再びに視線を移すと、「あ、ううん、別に深い意味はないんだけど」とは少し慌てたように手を振った。
「ただね、仲良さそうだなって思ってちょっと気になっただけなの。私、愛称で呼んだりとか、そういう経験一度もなかったから」
それだけだよ、と笑うに、俺達は再び顔を見合わせる。
「なら、呼んでみるか?愛称で」
何だかのその表情に微かな羨望というか、好奇心のようなものが混じっていた気がしてそう提案してみると、は「えっ?」と思った以上に驚いたような声を上げた。
「『博士』とか、『教授』って?」
「ああいや、それは少し特殊というか、俺達もいつもそう呼び合ってる訳ではないし……そうじゃなくてだな。普段から愛称で呼び合ってみるか、ということだ。もう少し、普通の呼び方で」
「え……でも、どうして?」
「いや、俺としても特に明確な理由がある訳じゃないんだが……」
の表情からなんとなくそんな言葉が出てきただけなのでなんと言ったらいいものか、と考えていると、貞治が「まあとにかく、とりあえずやってみたら良いんじゃないか?試しに」と話を進めるよう促した。
「蓮二はともかく、俺と日吉さんは未だに苗字で呼び合ってるし」
「あ……そういえば、そうだね」
「まあ、呼び捨てにしている訳でもないからな。確かにちょっと余所余所しいか」
「でも、何て呼んだらいいんだろう」
愛称……と呟きながら考え込むを見て、俺も何かないかと思考を巡らせる。縮めて呼ぶにしても、『貞君』は何だか変だしな。何がいいだろう。
それから少し考えてみても特に良い案は浮ばず、それならもう普通に名前で呼べばいいのでは、と思ったところで不意にあることを思い出した。
「貞治。お前、確か家族に『ハル君』と呼ばれてなかったか?」
「蓮二……何時の話だ」
「当然、今よりもっと幼い頃の話だが。呼ばれていたことは事実だろう」
「え、じゃあ……ハル君って呼ぶ?やっぱり、嫌かな。やめておいた方がいい?」
「……若干抵抗があることは否めないが……まあ、いいとしようか」
それ以外には特に愛称と呼べそうなものもないしな、と言う貞治の表情は、その言葉ほど戸惑いの色は含んでいない。まあ、満更でもないといった感じか。
その様子にクッと少し笑いを零すと、それに気付いた貞治が少し不満そうに片眉を上げて「それじゃあ、蓮二はどうするんだ?」と俺の方へ水を向けてきた。
「蓮二だって、前は『蓮君』だっただろう?」
「まあそうだが。無難な呼び方だし、それでいいか?」
「うん。蓮二君がいいなら、私はそれでいいよ」
「ああ、別に構わない。それで、はどうする?」
「普通に『』とか、その辺りでいいんじゃないか?普段呼び合うならば奇抜なものである必要はない訳だし」
それもそうだなと頷き合い、試しに「それでいいか、」と隣に声を掛けてみれば、は少し照れた様子で、しかしそれでも嬉しそうに「うん、ありがとう。蓮君、ハル君」と笑った。
- end -
2010-06-26
幼馴染トリオを仲良くさせよう!ということでまずは愛称呼び。流石に『教授』『博士』とは呼べませんが……。
とりあえず、こうやって色々戯れていってくれたらと思います。