安全運転でよろしく


 もしもし、ちょっとそこいくお姉さん。少しだけお時間よろしいでしょうか。

 いえ、別に怪しげなキャッチセールスとかそんなんじゃないんです。ただちょっと、私が今置かれている状況を誰かに聞いて欲しかっただけで。
 とりあえず時間がおありなら、お茶でも飲みながらゆるっと聞いていただければ幸いです。

 私、その日普通に登校してたんですよ。「ダルイなぁ、もう歳かなぁ」とか朝から年寄り染みたことを考えつつ、いつも通り適当に音楽聴きながらぎゅうぎゅうの満員電車に乗って。
 ラッシュ時の電車ってほんと人殺すくらいの威力持ってると思うんですよ。そりゃ疲れた考えにもなるだろってくらい。まあ私の通ってる学校って駅から割と近い場所にあるし、電車降りちゃえば後は結構楽なんですが。

 で、学校に着いたら当然授業が始まるわけで、もう少しで中間テストが始まる時期だったこともあって、それなりに真剣に取り組みました。あまりに真剣に取り組みすぎたせいで、教科書がアンダーラインばっかりになって逆に分かりづらくなったくらい。まぁその辺はご愛嬌ってやつですよね。よくあるよくある。
 それから部活に精を出したらとっても疲れたので帰りに自分へのご褒美と称して某31なアイス屋でアイス食べたんです。ダブルのヤツ。しかもスモールじゃなくてレギュラーですよ!月末で懐は極寒だったってのに、随分調子こいたもんだと自分でも思います。でも無性に食べたくなっちゃったんだもん仕方ないですよねー。多分酷使された脳が上質の糖分を欲したんだと思います。うん、きっとそう。
 因みに選んだフレーバーはストロベリーチーズケーキとクッキーアンドクリームです。コーンはワッフルコーン。どうです、間違いない感じのチョイスでしょう!食べ物で冒険しない主義なんです私。

 そんな感じでお手軽な至福を味わいつつ帰路に着いたわけなのですが。
 ここからがいさかか問題でして。いや、いささかじゃないか。だいぶ、かなり、超ド級の大問題。とにかく私の人生を大きく左右する出来事が起こったんです。

 大型トラックに撥ねられました。それはもう、盛大に。

 本当に、なんていうか……予想外でした。超予想外でした。まあそりゃあ予想してたらこんなことになってねえだろって話ですが。
 うわコレ死んだな、とかぼんやり思いました。だって軽トラックならまだしも、大型ですよ、大型。助かりっこないじゃないですか。いやー、あん時はむしろトラックに撥ねられたことより自分が変に冷静なことに驚きましたね。
 あと、買い替えたばっかり音楽プレイヤーが彼方に吹っ飛んでくのが目に入って「トラックの運転手も死ねばいいのに」とか性格の悪いことも考えました。だってあの野郎、歩道に突っ込んできたんですよ!私は「やっぱチーズケーキは外せないよねー」とか言いつつアイス頬張って歩いてただけなのに!!ぶっちゃけ向こうだけ死ねとか思っちゃうのも仕方がないと思います。
 それからは視界真っ暗、ブラックアウト。花の17歳、あまりに早すぎる死でした。最後に走馬灯を体験することができなかったのが心残りと言えば心残りかもしれません。


 で、次の瞬間には白い天井を眺めてました。
 とりあえず真っ先に思ったことは「うお、すご!私生きてる!?マジか!すげー何これ私にあるまじき運の良さ!!」とか、そんな感じだったと思います。
 目の前になんだかよく分からないガラスみたいなものがあったり遠くの方から何かの泣き声が聞こえたりと、よく考えれば不自然なことはいくつかあったんですが、そんなことに気付く余裕がある訳もなく。
 とりあえず奇跡的に助かって病室に寝かされているんだと思ってたんです。



 その部屋が新生児室なんて名前で呼ばれていることも知らずに。










Afterword

導入編なので極めて短く。始まりは唐突なのが鉄則ってことで。
2008/‐‐/‐‐