ある日、試合形式の練習のためにレギュラーと数人の準レギュラーが同じコートに集合した時のこと。練習に必要なものを準備しに行った妹を手伝うために鳳がその場を去った直後、唐突に向日が「……なあ、俺思ったんだけど」と口を開いた。
「なんや岳人、いきなし。思ったて、何がやねん?」
「俺らさ、何気に構い過ぎじゃね?」
ズラリと揃ったメンツをぼんやりと眺めながら、やけに真剣そうな顔でそう続ける向日に周囲は一瞬沈黙する。
数秒と経たずに跡部がハッと鼻で笑い、宍戸もそれに同調するようにハァ?と眉根を寄せた。
「気のせいだな。いきなり下らねぇ話するんじゃねぇよ」
「おう、考えすぎじゃねーの?つか向日は何で急にンなこと言い出したんだよ」
何を言ってるんだコイツは、という視線を周りから向けられ、向日は「だってさぁ!」と声を大きくしながら隣に立つ忍足に向かってビシリと人差し指を突き出す。
「侑士、前に映画誘ってたじゃん。しかも恋愛もの!」
「偶々試写会当たったから誘っただけやろ。自分ら誘ってもだぁーれも行かへんのは分かっとるし。つかラブロマンスの試写会に男2人とか寒過ぎるわ、普通に。女の子誘わんと誰誘うねん」
人ンこと指差すなや、と手を押し退けられても、向日はまだだとばかりに今度は跡部と宍戸に視線を向ける。
「跡部なんかわざわざ生徒会室呼び出して茶ァ飲ませたり菓子食わせたりしてるらしいし、宍戸も何だかんだ雑用手伝ってやること多いよな?」
「あれはただ雑用やらせた後にその辺にあった貰い物をやっただけだ。別に飲み食いさせるために呼んでる訳じゃねえ」
「マネージャーでもねぇのに色々やらせちまってんだから、重いモン運んだりしてる時くらい手伝ってやってもいいだろーが」
「つかそれ言うんやったら樺地もよう手伝っとるやろ。滝かてそんなんようやっとるし」
「あと日吉!日吉も冷たいフリして何気に本とか貸してやってるだろ!」
「アイツが読みたいと言ってた絶版本を偶然祖父の書斎で見掛けたから持って来てやっただけです。どうだっていいでしょう、何でそんなところ見てるんですかアンタ。しかもそれなら芥川さんも漫画持ってきて貸したりしてるじゃないですか」
「あー、それいっつも膝貸してもらってるからジョジョ貸したげるって約束したんだー!マジマジ、読んだらちゃんも絶対ハマるC!プロシュート兄貴とかマジかっけーの!」
「、ジョジョは絵ぇキツイから好きじゃねえって言ってなかったか?激ダセェ、好み考えてから貸せよジロー」
次々と出てくる事例に、向日は「だから、ソレもコレも全部だよ!超構ってんじゃん!」と吼えた。
「何なんだよ一体……向日もよく『それ一口!』とか言って食いモン貰ったりしてんだろ。つか実際構ってたとしてもどうでもよくねぇか?何でンなこと気にすんだよ」
「俺が言ってんのは、何か、鳳の猫ッ可愛がりが伝染ってきてねぇ?ってことだよ!」
俺ら、今までそんな特定の女子の後輩可愛がったりしたことなかったじゃん!
向日のその訴えに、初めよりも少し重さを増した沈黙が降りる。それをハッ、という笑いで破ったのは、やはり跡部だった。
「……気色悪ぃこと言ってんじゃねえ。馬鹿馬鹿しい」
「マジ、伝染るとかありえねぇし……」
「そういう鳳ネタは止めて下さい。気分が悪くなる」
「ちゃんに関することやと、鳳はほんまやったらありえへんことを“もしかしたら”と思わせよる何かがあるからなぁ……」
「だろ?だろ、侑士!?ありえないなんて俺だって分かってんだよ!でもなんか、不安にならねぇ?『これ、徐々に悪化したりしねぇよな?』って!」
俺だけ何か不安なの癪だから、お前らにも話しといた!と今までの真剣ぶった顔を笑顔に変えて言い放つ向日に、方々から平手が伸びた。
(まるで、伝染病のように)
伝染していく。
使用お題 WEB拍手のお題 / Abandon