もしも幼馴染が〇〇だったら


千石清純の場合



ちゃーん……」

 ある日キヨ君がしょんぼりした様子でいつものように私の前に現れ、内心またかと溜め息を吐いた。

「…………完璧に予想はついてるけど、一応聞いとく。一体何?」
「それがさ、聞いてよ!この間知り合ったミヨちゃんね!何回かデートもしたしイイ感じだと思ってたのに、急に彼氏ができたとか言い始めるんだよ!」
「あー……完全にパターンBだね。ご愁傷様ー」

 酷いと思わない!?と悲壮ぶった顔をして喚くキヨ君にそう言って合掌してやる。
 『パターンB』。最初からただのちょっとした遊び相手としてしか見られておらず、結局相手にされず終わるパターンである。当然他にもAだのCだのと勝手に色々と分類してたりするんだけど、まあそんなこと今は関係ないので割愛するとして。

「冷静な分析やめてよちゃん!ちゃんと慰めて!」
「分析でもしないとやってらんないよ、キヨ君同じような話ばっか持ってくるんだもん。ていうか、この前言ってたアキちゃんとやらは?」
「もうとっくに振られてるよ〜……!!」
「相変わらずハイペース過ぎてついていけないよ〜……」

 キヨ君の言い方を真似て語尾を延ばし気味に言ってやれば、キヨ君は「ちゃんも酷い……」と言いながら机に突っ伏してしまった。私のどこが酷いと言うんだ、毎度毎度こんな話に付き合ってやってるっていうのに。
 仕方がないのでカラーのし過ぎでパッサパサなオレンジの髪を撫でてやると、「……何でなんだろ」とキヨ君が小さく呟く。顔を伏せているせいで少し声がくぐもっていて、ちょっと聞き取りにくい。

「……俺、結構一途なんだけどな」
「うーん……まあ、捉え方次第では、そうとも言えるけど」
「ちょっと目移りしちゃうことはあるけど、浮気とか二股とか絶対しないし。メールも電話もマメだし、付き合った日付とかも忘れない。尽くしてるつもりなんだけど」
「そーだねー……」

 キヨ君は、中学生にして“ナンパ師”なんて揶揄されるほど軽い。そこには反論の余地は欠片もない。でも、本人曰く二股のようなことをしたことは一度としてないそうだ。
 今まで話を聞いた限りでは、確かにキヨ君は少し他に目移りしたりもするし、いっぺんに色々な女の子にアプローチをしかけていたりはするものの、複数の人間と同時に付き合ったり、特定の相手がいる状態で他に手を出したり、ということはしていないらしい。
 居住区が被っている訳でもなければ通っている学校が同じという訳でもない私にはそれが本当かどうかなど知りようもないが、今まで可愛らしい恋の悩みから「お前そんなことまで私に話してもいいのか」というような赤裸々な内容のものまで、キヨ君は私に対して本当に何でも話してしまう人なのでその辺りはそれなりに信用していいかと思っている。

 ともかくそんなキヨ君が本当に一途と言えるかといえばそりゃあ疑問は残るが、とりあえずキヨ君がいつも本気であることは知っていた。
 ただ私が思うに、大抵の女の子に超可愛いという評価を簡単に下してしまうストライクゾーンの広さと、尚且つそれを口に出して伝えてしまうキヨ君の女の子に対するアクティブさ、それから異様なまでの立ち直りの早さが災いしているように見える。キヨ君が本気に見えないから、女の子達もキヨ君に対して本気になってくれないのだ。きっと。

 しょうがないなぁ、という呟きと共に立ち上がれば、その音に反応してキヨ君がふっと顔を上げた。

ちゃん、何処か行くの?」
「ん、コンビニ。今度はコンビニスイーツ巡りしようって言ってたでしょ?ほら、前にホットスナックの食べ比べした時」

 仕方ないから自棄食いに付き合ってあげるよ、と腕を引いて立ち上がるよう促す。その途端、キヨ君はパッと笑顔になって「ちゃーん!」と半ば叫ぶようにして私の背中に引っ付いてきた。

 ああ、こうやってつい慰めちゃうのも、遠因になってたりするのかもしれない。




(本当はもうちょっと落ち込ませた方が、彼のためかもしれないんだけど)