もしも幼馴染が〇〇だったら
柳生比呂士の場合
パラリパラリと一定の間隔でめくり続けていた本をパタンと閉じ、ふうっと息を吐く。うーん……超当たり。思った以上に楽しめた。なんていうか、この人の文章の運び方好きだなぁ、私。
この人の本他にもないかな、と読み終わった本を持って立ち上がると、向かい側に座るヒロ君がそれに気付いて「さん?」と顔を上げた。何処に行くんですか?なんて言いながらも私が何をしに行こうとしたのかなんて見当がついているらしく、咎めるように眉を寄せる。
「えーっと、この人の本が思った以上に好みだったので、他にも既刊ないかなー……なんて」
「確か、感想文を書くんじゃありませんでしたか?その本で」
「えー……うんとー、そのつもりだったんだけどー……」
えへ、と誤魔化すようにわざとらしい笑顔をつくると、ヒロ君ははぁ、と軽く溜め息を吐いた。
「今日は課題をこなす為に来たんでしょう。そろそろ夏休みも終わってしまいますよ?」
「うーん……それは分かってるんだけどね?あ、ほらヒロ君もちょっとだけ見てみてよ!この人の書き方、多分ヒロ君も結構好きだと思うよ」
「さん」
窘めるように名前を呼ばれて、思わず「うう……」と呻く。ヒ、ヒロ君優しくない。下手な誤魔化しだって乗ってくれてもいいじゃないか。感想文終わらせないといけないのは分かってるんだけど、どうしても読みたくなっちゃったんだもん……。
「でもさ、でもさ、他の課題は全部終わってるんだしさ、感想文なら最悪最終日でもいけると思わない?」
「まあ、終わるとは思いますが……さんはなんだかんだ言って凝り性ですから、最終日に感想文を片付けるとなるとギリギリでしょうね」
「うわーい、まったくもってその通りですよこのやろー……!」
私の性質をホントによくご存じですよ!どうせ「まあぶっちゃけある程度体裁整ってて、そんで字数も満たしてあればそれでいいんだし!出来を気にしなければちょろいよね!」みたいなこと言いつつ、いざ書くとなると中途半端な文晒すのが恥ずかしくなってきて結局結構な時間費やしちゃうことになるんだよ!自分でもそのくらい分かってるってば!
そんな正論ばっかで責めなくても!なんて大袈裟に嘆きながら、仕方がないので大人しく課題をこなそうと椅子に座り直す。無難なタイトルと氏名を書き込んで、どういう書き出しにしようかなーと考えつつやる気なさげにシャーペンをぷらぷら振っていると、ヒロ君がふう、とまた溜め息を吐いた。
それからちょっとだけ眉を下げて、困ったような、少し呆れたような顔で微笑む。ヒロ君が「仕方がない」という台詞を使う時の、いつもの表情だ。
「その著者の既刊は、私が探しておきますから。さんはしっかりと課題を終わらせてしまいなさい」
「えっ、嘘、ホントに?ありがとーヒロ君!」
幼馴染の思わぬ提案に口では「ごめんねヒロ君も読書してたのに!」なんて言いつつ、やったラッキー!と言わんばかりの笑顔を向ける。するとヒロ君は口元の笑みと眉間の皺の両方を一層濃くして、「仕方のない人ですね」と予想通りの言葉を口にした。
ああもう、ヒロ君ってだから好き!
(ヒロ君ってば本当に私甘やかすの上手いんだから!そりゃガキっぽくもなるっつの!)