アリア (祐一×珠紀前提)



「……解せぬ」

 祐一が立ち去った後、アリアは一人呟いた。
 あの者の言うことはおかしい。矛盾している。傷つくところを見たくないと言いながら、その言葉でシビルを傷つけている。相手の心を否定し、遠ざけ、傷つけている。これ以上ないほどに。
 祐一の言動にどうしようもない苛立ちを感じる。それと同時に、そんな感情を持つ自分にも苛立っていた。

 何故、自分は祐一の言葉にこれほど苛立っているのか。
 何故、傷ついているシビルを見るとこれほどに胸が痛むのか。

 今は敵対しているわけではないが、かといって味方だというわけでもない。そんな己の内側の人間でもないシビルの涙に自分は何故こうも動揺するのだろうか。

「……解せぬ」

 もう一度呟いたその言葉は果たして誰に向けたものなのか。
 それすら分からず、アリアは静かに苛立ちを募らせた。





(どうなろうと関係ないはずなのだ、私には)

卓×珠紀



「大蛇さん、これは……?」
「生茶葉のショコラです。日本茶にとても合うと評判だったので、ネットで取り寄せてみました」

 にっこりと笑う卓に「相変わらずネットだのという言葉が似合わない人だ」などと若干失礼なことを思いつつ、祐一は件のチョコをひとかけ摘んだ。

「先輩、これ美味しいんですよ!私もこの前卓さんに頂いたんですけど、すっごい気に入っちゃいました」

 珠紀にそう言われ早速口に含んでみると、仄かなお茶の味とチョコに混ぜられた玄米の香ばしさが相俟って、なるほど日本茶によく合いそうだった。

「確かに美味いな」
「ですよね!」
「ああ。……だが、最近お茶請けがチョコであることが妙に多いように思う」

 この前もそうだったな、と祐一は独り言のように呟く。その時は紅茶を振舞ってもらったため、確かチョコバナナケーキだった。

「おや、そうですか?」
「以前は和菓子がほとんどでした」
「そうですねぇ……。確かに最近は、チョコレートに凝っているかもしれません。美味しいですし、なにより、食べると嬉しくなりますから」
「嬉しく?」

 首を傾げる祐一に卓は笑みを一層深くし、ねぇ珠紀さん?と続ける。
 途端に顔を赤くした珠紀を見てどうやら自分は当てられたらしい、と祐一は短く息をついた。





(詳しい事情も知らないのにそうと分かるんだから、相当だな)

守護者 祐一&慎司ルートの総力戦



『命を賭してでも、封印を守りなさい』


 それは幼い頃から俺達全員が言われ続けてきた言葉であり、俺達の存在意義そのものだった。

 そのための人外の力。
 そのための人外の体。

 だというのに、なんなのだ。俺達の目の前に立つ、見るからに満身創痍のこの少女は。

「簡単に命なんか、かけないで」

 本当に、玉依姫なんだろうか。玉依姫なら、何故こんなことを言うのだろうか。
 もしかしたら何かの間違いなのかもしれない。本当は玉依姫でもなんでもなく、だから未だ覚醒もしていないのかもしれない。
 そう考えなくてはおかしいのだ。玉依の血の者が、こんなことを言うなんて。玉依の血の者が封印の維持より、守護者の安全をとるなんて。

 この少女は、何かが違う。

 そう意識し始めたのは、きっとこの瞬間からだった。





(ああ、できるなら。どうかこの少女だけは、染まらず)