手の内の心に想いを馳せる



 手の中で、キラキラと輝くガラスの小瓶。夕日に照らされ、中の液体が柔らかな橙に染まっている。彼女のココロ。決して目に見えるはずなどないもの。
 ソレが今、自分の手の内にある。そう意識した瞬間、ドクリと体の中で何かが脈打った。

 馬鹿な子だ。

 賢いのに、彼女は時々驚くほど愚かなことをする。こんな大事なものを俺みたいなヤツにあっさりと渡してしまうなんて。この小瓶の重要性が分かっていないというのもあるが、この無防備さはおそらく俺のことを信用してのことなのだろう。
 馬鹿な子だ、と心の中でもう1度呟く。俺がこの小瓶をこのまま奪ってしまおうか、なんて考えていることも知らずに。

(だってそうすれば、彼女そのものと言っても過言ではないソレが手に入れば、君は俺のものになるかもしれないだろう?)

 そこまで考えて思わずくつりと笑いが零れた。それこそ、なんて馬鹿らしい。なんて非現実。そんな都合の良い話があろうはずがない。しかし馬鹿だと嘲る一方で、その思いつきは酷く魅力的なように思えて仕方がなかった。

「……?どうしたの、グレイ。その小瓶、何かおかしなところでもあった?」
「いや、何もおかしなところなんてない。綺麗だよ、とても。……見せてくれて、ありがとう。もう少し見ていたい気もするが、コレはもうキミに返した方がいいだろうな」
「そう?別に見たいなら見ていればいいじゃない。私は構わないわよ?」
「いや、いい。遠慮しておこう」

 いつ、俺の気が変わるとも知れないから。
 ふうん?と不思議そうに首を傾げる彼女にそう心の中だけで薄暗く笑って、小さな手にそっと小瓶を握り込ませた。





(君の心を握るという悦楽は、中々に抗い難いものがある)