プリメア ラドウ×リトル
500年もの間、父と呼ぶ人物を裏切り続けた。
エゴにすぎないだろうが、彼を救うためだ。さして胸は痛まなかった。
100年の間、仕える主を欺いた。
好きで仕えたのではない、飽く迄も目的のための手段だ。罪悪感など感じようはずもない。
今、自分のことを兄と慕う少女に背を向けた。
仕方がない、彼女を救うためだ。
しかし零れた涙が床に爆ぜた瞬間、酷く胸が軋んだのを確かに感じた。
(裏切ることなど、とうに慣れていたはずだったのに)
コルダ2 王崎×香穂子
今日は一段と指がよく動く。思い描いた通りの音が、軽やかに街角に響き渡る。一通り弾きたい曲を弾き終え弓を下ろすと、今度は道行く人々の惜しみない拍手が響いた。キンと冷えた空気を胸いっぱいに吸い込んで、聴衆に深々と礼をする。
『どうした、今日はまたえらく嬉しそうな音を出すじゃないか』
『それに何だか恋の曲が多かったみたい。恋人と何かいいことでもあったのかしらね?』
いつもはドイツ語なんて半分も理解できないのに、この時ばかりは掛けられる声がどれもからかいを含んでいるのがわかった。
(やっぱり、そんなに分かり易いのかなぁ……俺って)
緩む頬をパシリと叩いて引き締める。が、またすぐに緩んでしまう。
(私も会いたいです、かぁ……)
駄目だ、やっぱり今日一日、この頬は戻りそうにない。
(早く戻りたい、なんて考えるのは流石に不謹慎かな)
コルダ2 月森×香穂子←アンサンブルメンバー
「じゃあな、月森。後のことは任せとけ。お前はせいぜい向こうで腕磨けよ」
「もし日野さんが寂しがって泣いちゃったりしてもちゃんとフォローしておくから、月森は安心してヴァイオリンに打ち込んでよ」
「僕……先輩が寂しくないように、チェロを弾きます。先輩の傍で、ずっと。だから……月森先輩は、ヴァイオリン頑張ってください」
「あ、俺も俺も!俺も日野ちゃんのためにトランペット吹くよ!月森君が行っちゃっても寂しくないように!トランペットの音って、何か聴いてると元気出てくるでしょ?」
「じゃあ折角だから冬海さんのときのように演奏会を開こうか。今度は日野さんのために。……月森君も、日野さんと離れて寂しくなるだろうけど、頑張ってね」
「…………言いたいことは、それだけでしょうか」
(戦場のヴァイオリニスト)