ぼくのもの



「〜〜〜〜っ、瑞希君っ!!」
「ん……おはよう、悠里」

 いつものように僕の名前を呼ぶ悠里の声で、僕の意識は浮上する。
 今日は何だか怒っているな、なんて。そんな理由、僕には十分分かってるけど。

「おはよう、じゃないでしょ!こーいうトコにはつけないでって、前にも言ったのに〜!!」

 悠里の言う『こーいうトコ』とは、胸元の辺りのことだ。くっきりと、僕の散らした紅が白い肌によく映えている。
 うん、やっぱり凄く綺麗だ。悠里は色が白いから、鮮やかな色が良く映える。

「大丈夫……ちゃんと、見えない位置につけたから」

 今日も学校なのに!と怒る彼女を宥め賺して、鏡の前へと誘導する。
 後ろからシャツを着させて、ボタンを閉めて。そうして襟元をちょっと整えてあげれば、ほら見えない。

「あ……本当。ギリギリで見えてない……」

 ね?と鏡の中の彼女に微笑んでみせると、何で得意げなの、なんて言いながらペシリと頭を軽く叩かれた。

「言っとくけど!つけないでくれればそれが一番助かるんですからねっ」
「それは……嫌」

 もう、と頬を膨らませながらも服で隠せると分かって安心したのか、悠里はそのまま朝の支度へと戻っていった。その後姿を見送ってこっそり笑う。

(気付いてない)

 別に、嘘はついていない。

 彼女と同じくらいの身長の生徒、つまり女生徒なんかからは確かに見えない位置だし、背が高い女生徒だったとしても恐らく気付かない。同性の教師の胸元を注視する人間もそうはいないだろう。逆を言えば彼女より背が高く、意識して見ようとした者になら話は別だということ。ほぼ確実に、見えるだろう。当然だ。そういう位置をわざわざ選んでつけたんだから。
 普段傍に居られない僕の代わりに、盛りのついた男子生徒や一部の教師達に少しばかりの牽制を。
 きっとこのことが悠里にバレたりしたら顔を真っ赤にして怒るんだろう。でも本当なら学校まで行って見せ付けてやりたいところを我慢してるんだから、代わりに悠里が自分で宣伝してきて欲しいんだ。

 “私は売約済みです”って、ね?





(もっと本当のことを言えば、どこかに閉じ込めちゃいたいんだけど。やっぱり光の中で微笑む貴女が好きだから)