瑞希×悠里
「……悠里」
「んっ、……瑞希、君……」
ゆっくりと、できるだけ優しく彼女の身体をシーツに押し付けその唇に触れるだけのキスを落とす。
するりと頬を撫でながら舌先で口を開くよう促せばふるりと微かに身を震わせつつも素直に従う彼女が愛しい。少しずつキスを深いものへと変えながら、彼女のシャツへと手をかける。
「悠里……」
シャツのボタンを全てはずし終えてから、もう一度名前を呼んで。
そうして目も眩むような彼女のしなやかな肢体にようやく触れる、というそのとき――――
ボトッ
ボトリ
聞き慣れた音が鼓膜を打ち、「きゃ……っ!」と間近で小さな悲鳴を上がった。
まさにその瞬間だ。
IQ280という驚異的な知能をもつ己の頭脳の全てを以ってして、生涯をかけてでもこの謎の体質を解明することを彼は心に決めたのは。
(あぁ、あとほんの数分でもいいから後にしてくれれば、悠里からあのこ達に気付くような余裕なんて奪ってやれたのに)
二階堂→悠里
「あら?二階堂先生」
不意に声をかけられ振り向けば、微笑ましそうにくすりと笑われた。
「あ、やっぱり。ネクタイが少し歪んでるみたいです」
ちょっと待ってくださいね。
そう言ってネクタイに触れる柔らかな手つきに、心臓が大袈裟にはねたのが分かる。
「ん、と……よし!これでOKです!」
「あ……ああ、申し訳ありません、南先生。ありがとうございました」
「いいえ、いつも二階堂先生にはお世話になりっ放しですし。これくらい何でもありませんよ!」
にっこりと微笑む彼女はひどく可愛らしい。果たして自分は、家に帰った後でこのネクタイを緩められるのだろうか。
(とりあえず、鳳先生。先程まで歪んでいなかった筈のネクタイが、大袈裟なまでに曲がっているのが非常に気に掛かるのですが)
一×悠里
『頑張ってる一君に、先生からご褒美です!』
大学へと進学してから初めての長期休暇。
休暇中の時間を心置きなく悠里とサッカーに使うため、今まで1度もやったことのなかった休暇中の課題なんてものを早くから片付け始めた俺に悠里は1年前に戻ったみたいな口調でそう言った。
その言葉と一緒に差し出された彼女の左手には1本のアイス。もう片方の手には食べかけの同じアイスがある。
とろりと、悠里の口内の温度で少し溶ろけた白のソレ。アイスの食べ方について言えば、彼女は齧る派ではなく舐める派であるらしい。
ご褒美とはこのアイスのことなのか、それともアイスを頬張る彼女のことなのか。
課題に向かうよりも余程真剣に頭を抱えた、夏の日。
(何でアイスキャンディーなんだ。その上、何でよりによってミルク味なんだ)