補足の話


『サーブだけじゃなかった』後日談  鳳兄妹



 運動会も終わり、グラウンド脇に出ていた屋台をちょた君と2人で手を繋いで見て回る。が、昼間のうちに大体見尽くしてしまっている私は、店より隣を歩く兄をにどうしても目がいってしまう。

「……ちょたくん、すっごくはやかったねぇ……」

 先刻のちょたくんの最後の走りを改めて思い出してみると、なんというかもう、そう言うしかなかった。

「そ、そうかなぁ」

途中で買ったアイスを頬張りながら、えへへ、と照れ笑いするちょた君は可愛い。その姿は先程モーリス・グリーンか、はたまたカール・ルイスの再来かというような走りを見せた少年だとはとても思えない。(例えが古いとかそういうのは気にしない!)
 周りの父兄も「速いねぇ、あの子……」と口々に言っていた。それはもうしみじみと。
 なんていうか、まあ、速すぎたよね。ぶっちゃけ。

「と、とにかく、よかったよね!いっとうしょうだよ!おめでと、ちょたくん!」
「うん!ありがとう、

 多少引いてしまうくらいに速かった(しかも見た感じ一時的に)が、将来的にテニスをやる訳だし足が速くて悪いことはないだろう。
 ていうかプラスにしかならないよ。オッケーオッケー、ちょっと異常な気がしても気にすることない。
 若干無理やりに自分を納得させていると、、とちょた君に手を引かれた。

、見て、これ」

 ほら、と差し出されたのは赤いリボンのついた金色のメダル。

「一ばんだったからぼくのチームがもらえたんだ。みんなが、ぼくがもって帰っていいって」
「へぇー、よかったね!」

 文句なしに1番の功労者だもんなぁ、ちょた君。
 つかすげぇな氷帝。学年ごとの選抜リレーで勝ったくらいでメダル配ってんのか!それって当然全学年配るんだよね。金あるんだなぁ。まあ氷帝だしね。きっと有り余ってるんだろう。
 すごいなーと変な方向に感心していると、ふいに首に重みが掛かった。メダルだ。何だろうと思いちょた君を見上げると、にっこりと笑顔が返ってきた。

にあげるね」

 が応えんしてくれたおかげだから、と嬉しそうにちょた君が笑う。
 アイスを持っているにも関わらず思わず抱きついてしまったのは、私のせいじゃない。




(かわいいかわいいかわいい!)




『お姫様の日』前日談(?)  忍足&向日



「なあ侑士、鳳が女物の雑誌読んでるように見えんのは俺の気のせいか?」
「んー?あー、気のせいなんちゃう?」
「バカヤロー侑士!現実を見ろ現実を!読んでんだろ!!明らかに女向けの雑誌を!鳳が!」
「何やねん、岳人が気のせいかて聞いてきたんやろ。鳳のことやったらどうせまたちゃん絡みに決まっとるやんか。ええ加減慣れろや」
「だっておかしいだろ!何で男子テニス部の部室に全体的にピンクな女物の雑誌が積み上がってんだよ!何だ“愛されワンピ”って!意味わかんねー!」
「しゃーないやろ?ンなこと言うたかて相手は鳳やねんから。あんまグダグダ言うとると感染るで岳人!」
「うえっ、あのシスコンがかよ!?マジ勘弁、あんなんなったら俺の人生破綻するっつの!キショイこと言うんじゃねぇよ侑士!!」
「せやったらああいう鳳には関わらんとき。何や別に難しいことやあらへん、見て見ぬフリすればええだけや」

 それが大人の対応っちゅーもんやで、岳人。
 そう言って相方の肩を叩く忍足の目は、世間の荒波にもまれた30代のようなそれであった。




(何も自分から、藪突付きに行く必要なんてあらへんねや……)




『お姫様の日』後日談  鳳兄妹



「ああ、そうだ。このテディベア、朝日と同じ誕生日なんだよ」
「え?このテディベアが?何で?」
「買ってきたテディベアの誕生日って、名前をつけてリボンをつけてあげた日なんだって」
「へー、そうなんだ。……じゃあ、この子もう名前つけてあるんだ。ちょた君がつけたの?」
「うん」
「なんて名前?」
だよ」
「……………………へぇ」

 嬉しそうに笑うちょた君を前に、『誕生日が同じでなくてもいいから名前を付け直したい』とは言い出せなかった。




(持ち主は私になることを考えてから名付けてほしかったな……)